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森川准教授のページ

私の地域再生


 15年ほど前、「誰でも参加できます」という小さな新聞記事を目にしたときに、私の地域との関わりが始まった。

 そのころ、都市計画コンサルタントとして、総合計画をはじめとする種々の計画づくりに15年近く関わっていたが、多くの場合、地域と直接関わりをもつこともなく、報告書を作成して、ハイ終わりということに、何か物足りなさを感じていた。もう少し地域と関わりたい、そんな思いであった。

 冒頭の新聞記事は、「滋賀まちづくり研究所」、通称「まち研」というグループの設立総会の開催案内であった。このグループは、平成4年度に滋賀県が開催した「地域づくり戦略セミナー」に参加した市町村職員有志が、地域や職域を越えたネットワークをつくろうという思いからスタートした組織である。その設立総会に出席し、活動に参加するようになった。「市民活動」という言葉は、そのころまだ耳にしなかったように思うが、市民による自発的な活動が全国各地に見られるようになってきていた。

 毎月例会が行われ、年1回の県外研修では全国各地を訪ねて、まちづくりのキーマンにお会いした。まち研はネットワーク型の組織であり、まち研で得た情報や元気が、メンバー一人ひとりの活動の糧になった。私自身についていえば、まち研で活動してきたことが、地元の大津で活動を始める大きなステップ台になったといっていいだろう。

 滋賀まちづくり研究所での取り組みで、地域に関わることのおもしろさを知った私は、平成7年5月に「大津の町家を考える会」の活動に参加した。この考える会では、「考える」だけでは町家は保全できないと、平成13年6月に敷地百坪ほどの立派な空町家を「まちづくり大津百町館」として再生し、一般に開放した。町家体験の場として、また、大津のまちなかにおける出会いと交流の場として、考える会が管理運営にあたっている。

 平成14年には、大津市内にある131の鎮守の森の調査を市民参加型で行う機会を得たが、この調査に参加した有志で「淡海の杜の会」を立ち上げた。ここでも、調査するだけでなく、樹木を守るためにわれわれも少しは汗をかこうということで、大津の三井寺境内にあるシイの老大木を再生させる活動をはじめた。木が本来もつ生命力を活かすいわば東洋医学的な方法で取り組んでいる。それは、市民誰もが気軽に取り組めるやり方である。効果がでるには時間がかかるかもしれないが、こうした取り組みがひとつのモデルになって、老大木を守る市民運動が各地に起こってくれば、うれしいことである。

   ■まちづくり大津百町館でのフォルクローレのコンサート

   ■再生に取り組む三井寺のシイの木

 市民一人ひとりが、自発的に地域の課題に取り組んでいくことが求められている。地方分権が進むとともに、地方自治体の財政が厳しさをますなかで、住民自治を高めることが一層必要になっている。その担い手となるような市民団体の活動が活発になることが期待される。大津市ではそうした市民活動に対する取り組みが遅れていたことから、市民活動を支援する拠点機能の開設に取り組んだ。幸い平成18年4月に、「大津市市民活動センター」がオープンし、現在、指定管理者としてその管理運営にあたっている。滋賀県は市民活動が盛んと言われているが、もっと足腰の強い市民活動が展開していくことが望まれる。その実現に貢献できれば、と思っている。

 話は変わるが、40歳も半ばを過ぎてから、演劇の世界にのめりこんでしまった。ことの起こりは、9年前の大津市市制100周年の市民劇参加者の募集に応じたことにある。この時はじめて、「オーディション」なるものを経験し、稽古に励み、そして本番では初舞台にもかかわらず、いい役をいただいた。それ以後、「役者は一度やったらやめられない」状態が続いている。年に一度は舞台に立っている。この「演劇」の世界、総合芸術といわれるように、なかなかに間口が広く、奥が深い。役者についていうならば、表現能力、コミュニケーション能力、場の空気を感じる能力、他者の気持ちを読み取る能力・・・・などなど、まちづくりに関わる人材が必要とするあらゆる能力を磨くことができる、とひそかに思っている。そして舞台とまちづくりは似ているなぁ、と感じている。どちらも多くの人が関わってひとつのものを創りあげていく楽しさや喜びがある。私が関わるのは市民劇であることから、そこには小学生から60歳代までの老若男女が参加し、全員が一緒になってひとつの舞台を作り上げていく。舞台は参加者を元気にし、まちを活気づけていく。まさにまちづくりであり、地域再生の取り組みといえる。今は、来年3月に上演する「額田王」の制作に携わっている。舞台にも立つが、プロデューサーとしての勉強もしたいと思っている。


   ■私の初舞台 ソーントン・ワイルダーの名作「わが町」をモチーフにした作品
     結婚式場で「わたし結婚したくない」と、娘に言われてしまう父親役

 さて、あらためて「地域再生」とは何か。少々長いが、「地域の人たちが主体になって、地域の資源・資産を再評価・活用することにより、持続性のある豊かな暮らしの場を、再構築していく連続的な取り組み」としておこう。地域を元気にするための、実践的で継続的な取り組みである。そして、地域再生とはかつての姿に戻すことではなく、新たな次元の世界に、地域を展開させていく創造的な行為である。

 こうした地域再生に関わる人材=「コミュニティ・アーキテクト」が、求められている。残念ながら、職能としてまだまだ確立されていないが、地域再生を実践できる人材が、成熟社会といわれる日本で必要なことは間違いない。そんな人材が、近江環人地域再生学座から育っていくことを願っている。

(情報誌「近江環人」第2号より)